INTERVIEW

「『バンクシー展って誰?展』スペシャルトークイベント」レポート

10月29日(土)に開催したスペシャルトークイベントでは、『バンクシー展って誰?展』を企画した日本テレビ・落合ギャラン 健造プロデューサーと、制作を担当した日本テレビアート制作デザインセンターの唐子 尚樹チーフプロデューサーに、貴重なお話を伺いました。今回は、お2人のお話を少しだけ特別に紹介します!


■ バンクシーってどんな人?
バンクシーの出身地はイギリスの港町ブリストルです。ブリストルはウォールアートのまち。まちのあちこちにウォールアートがあります。出身地までわかっていて個人が特定されないのは、バンクシーがブリストルのヒーローで、まちぐるみでバンクシーを守っているからかもしれませんね。

「バンクシーって誰?展」高岡会場

上書き上等のウォールアートの世界で、ブリストルでは、バンクシーの初期のころの作品(ステンシルの技法を用いる前の作品)も現存しています。バンクシーは、ステンシルによる作品制作の技法をブリストルで確立したと言われています。あらかじめ型紙を用意しておいて、現場で作品を仕上げてあっという間に立ち去るにはとても便利ですよね。
ステンシルは、量産ができるので、シリアル番号を付けて版画のように販売していた時期もあります。このころは比較的安価で手に入った作品に今は何億という値がついていることもあります。バンクシーはブリストルで活動資金を集め、活躍の場をロンドンへ、アメリカへと広げていったのです。(落合氏)


■「バンクシーって誰?展」をやろうと思ったきっかけ
以前から存在は知っていたのですが、2018年にサザビーズのオークションでバンクシーの絵が落札と同時にシュレッダーで裁断される事件が発生し、特に大きな衝撃を受けました。事件が瞬く間にメディアで拡散されるのを見て、アートを通じて世の中にメッセージを届ける、現代アートの最先端をいっている作家として、ぜひバンクシーを扱った展覧会を実現したいと思うようになりました。(落合氏)


■「バンクシーって誰?展」は、どのように企画されたの?
手始めに、海外で開催されていたバンクシーの展覧会を視察しました。プライベートコレクターの貴重な作品が所狭しと並べられた充実したコレクションを見せる展覧会でしたが、キャプションと解説パネル、ところどころに解説映像があるオーソドックスな展示からは、ストリートで活躍するバンクシーの作品のリアル感を感じることができませんでした。

© Tetsu Shinagawa

バンクシーの作品が描かれた場所の 空気感や作品のサイズ感をリアルに伝えたい、バンクシーが活動する姿が垣間見えるような展示にしたいと考え、様々な相談を重ね、作品を街並みごと再現する展示方法に思い至りました。今回の展覧会のキャッチコピー、「まるで映画のセットのような美術展」に、その思いが込められています。(落合氏)

落合プロデューサーから、街並み再現展示のアイディアを聞いて大変悩みました。既に上書きされたり、消されたり、或いは壊されたりして存在しない作品も多い中で、街並みごと作品をいかにリアルに再現するのか。展覧会のキャッチコピーも大変大きなプレッシャーでした。セットがダメなら、展覧会の成功はない、ということですから。(唐子氏)


■「バンクシーって誰?展」を具現化するまで
海外のプライベートコレクターからお借りした作品をリスト化すると同時に、どの街並み再現を行うか検討しました。検討ポイントは3つ。現地に行けない中で手配できる現地画像があるか、日本人に伝わる作品か(文化的背景を考慮)、かつ、活動のハイライトを網羅できるか。最終的には、バンクシーが活躍している3大エリア(ヨーロッパ、アメリカ、中東)をテーマに構成し、現地のリアルを疑似体験してもらえるよう考えました。(落合氏)

「バンクシーって誰?展」高岡会場
「バンクシーって誰?展」高岡会場

いろんな切り口でバンクシーの作品を見る人がいるので、再現は街がいいのか、エリアがいいのか、再現方法についてかなり悩みました。既に実存しない建物と作品をどう再現するのか。当時の資料や画像に頼るしかなく、画像をもとに、サイズ感やテクスチャをどう出すかが最大の課題でした。(唐子氏)

どれだけ画像を集められるか、素材があるかどうかがポイントでした。できるだけいろんな角度から撮影された状態が確認できることが重要でした。(落合氏)

再現性をどのくらい出せるか、まちなみの中にどうはめ込むか。現地に行けない中で、リアルな再現を実現することは非常に困難でした。今回は、巡回を視野に入れていたため、高さや幅をどう抑えていくのか、巡回展の中の再現性についても考えなければなりませんでした。(唐子氏)

「バンクシーって誰?展」高岡会場

■「バンクシーって誰?展」の再現展示の“こだわり”ポイント
バンクシーが活動した現場の空気感、バンクシーがアートを描き込んだ場所のリアル感、サイズ感を再現することにこだわりました。ごみやステッカー、長年雨風にさらされてきたことによる汚れや路地の湿った感じ、都会のほこりっぽさなど、すべて忠実に再現する事を目指しました。(落合)

「バンクシーって誰?展」高岡会場

例えば、「スパイブース」の電話ボックスは本当の鉄で作っていますし、電話機は現地から取り寄せたものです。だいたいの装飾品は現地から輸入しています。ごみ箱や金色の少女の耳飾り(警報機)の部分も汚しをかけ、クラック(ひび)やウォッシュ(経年劣化)などの作業を念入りに行っています。(唐子)

© Kenzo Ochiai-Galand
© Naoki Karako

最初の展示会場となった寺田倉庫では現場で建て込みを行っていましたので、錆のプロが錆付けをする日があったり、造園屋が来て雑草を植えていく日があったり、と、日を重ねるごとにレイヤーが複雑に積み上がっていきました。(落合氏)



■「バンクシーって誰?」の答えは・・・・
この展覧会を見終わるころに、見た人がどう受け止めるのか、その答えを皆さんにゆだねています。でも、もしかしたら、私たち一人一人の中に小さなバンクシーがいるかもしれない。展示の中にある「I AM BANKSY」のステンシルには、そんな意味合いを込めています。(落合氏)

「バンクシーって誰?展」高岡会場

落合ギャラン 健造
Kenzo Ochiai-Galand

カナダ、モントリオール出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学から日本へ移り、劇団俳優座での俳優経験を経て、2005年に株式会社スタジオジブリ入社。海外事業部で長編作品の海外プロモートやジブリ美術館の企画展制作、イベント事業室でアニメーションの原画展制作などに携わり、2015年に日本テレビ入社。グローバルビジネス局イベント事業部でプロデューサーとして主に美術展を担当。主な展覧会は、2016年「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」展や2017年「ディズニー・アート展」、2021年は「バンクシーって誰?展」と「庵野秀明展」を担当。

唐子 尚樹
Karako Naoki

大阪府出身。展示会ブースデザイン・ディスプレイ・広告制作・大型グラフィック制作などを経て、2008年に日本テレビアート入社。日本テレビ関連の汐留イベントを中心に担当。番組関連イベント「ZERO写真展」(2009・2010・2012・2014・2016)・「笑点 放送50周年特別記念展」(2016)・PRモニュメント制作「ルーヴル美術館展」(2015・2018)・展覧会「バンクシーって誰?展」(2021~)など担当。