HIGH LIGHTS
体感せよ!
街角
のバンクシー。
“壁に絵を描く”という行為に、人類は先史以来、魅了されてきました。学校の教科書で目にする洞窟壁画はアートの始まりであり、祖先の高い表現能力を示す芸術です。その痕跡は、数万年前のものとは思えないほど自由そのものです。
そのような絵をハッと思い出させてくれるのが、現代のストリートで表現を続けるアート界の異端児“バンクシー” です。2018年に、少女と赤い風船を描いた作品が高額落札されるや、額に仕込まれたシュレッダーで突如細断。瞬く間に世界中で報道され、話題をさらいました。日本では、バンクシー作品と思われるネズミの絵が発見されると、大手メディアやSNSで拡散、認知度が上がりました。しかし創作活動の全貌や動機など、その真相が分かる者は依然少なく、謎に包まれた存在です。
本展は、世界各都市を巡回し人気を博した「ジ・アート・オブ・バンクシー展」の傑作群を、日本オリジナルの切り口で紹介する意欲的な展覧会です。プライベート・コレクター秘蔵のオリジナル作品の展示に加え、活動の主戦場である“ストリート” に焦点を当て、テレビ局ならではの街並み再現展示で没入空間を体感していただきます。―― それはまるで“映画のセット”。
ストリート・アーティストの先人であり、現代アートの巨匠でもあるヘリングやバスキアの次世代として、いま世界で最も注目を集める時代の先駆者“バンクシー”。その活動の意味を、幅広い世代に楽しく理解していただける貴重な機会となります!
会場に世界各地のストリート作品が出現!!
世界中に分散するバンクシーのストリート・アート。その代表作品を選りすぐって、テレビスタジオの舞台美術チームが、美術館とは異なる会場空間でリアルサイズに再現します。バンクシーのストリート作品を見るために世界一周の旅へ出なくとも、活動の3大地域と言われるヨーロッパ、アメリカ、そして中東の街並みをこの会場で体感いただけます。
故郷イギリスのブリストルからロンドン、映画にもなったニューヨークでの活動や自主企画で一世を風靡したロサンゼルス、そして幾度も訪れては作品を残し続けている中東。映画のセットのようなリアルな街並みを会場に出現させ、全面撮影OKの新感覚没入型展示を創出します。
リアルな街並と一緒に 場内撮影OK!







プライベート・コレクター秘蔵の オリジナル作品が初お目見え!!!
街なかや美術館でも通常は見ることのできない、プライベート・コレクター秘蔵のオリジナル作品を一挙公開。バンクシーに代わって作品の真贋を認証するペスト・コントロールにより本物認定された作品の数々で、バンクシーの足跡とその謎に迫ります。
会場でリアルサイズに再現するストリート作品と、コレクターからお借りする額装作品の比較展示は、本展でしか見られない貴重な体験となります。また、キャンバス、段ボール、鉄板、木板、紙、石の彫刻、リトグラフ、ポスター、アルバム・ジャケットほか、バンクシーの作品制作風景を収めた写真を含め、多種多様な表現手法や出展品にもご期待ください。そして今回特別出展として、イギリスのファッション・デザイナーで、アートに造詣が深くバンクシー好きで知られる、ポール・スミス氏からお借りする希少な油彩画《コンジェスチョン・チャージ》も必見です!

作品紹介


2018年、イギリスの老舗オークションハウス「サザビーズ」の競売にかけられて約1億5,000万円で落札された直後、バンクシー本人があらかじめ額縁に仕込んでおいたシュレッダーが作動して作品が千切りに細断され、世界を驚愕させた事件でおなじみ。もともとは2002年にロンドン市内のストリートで描かれた作品だが、その後、ロンドン、パレスチナ、ニューヨーク各地でさまざまなバージョンで描かれている。


バンクシー作品をアルバム『Think Tank』のジャケットに起用し成功を収めたイギリスのバンドBlur(ブラー)は、雑誌『Observer Music Monthly』2003年9月号の表紙用に、写真撮影のための背景デザインを再びバンクシーに依頼した。この作品は、その時に制作した3作品のうちのひとつであるが、最終的に採用されたのは、窓ガラスを突き破ってテレビのモニターが投げ捨てられる様子を描いた別のモチーフである。本作は子どもがテレビ漬けになる悪影響への警鐘を鳴らしている。


ロンドン警視庁の80年代当時の制服を着た警察官が『オズの魔法使い』のドロシーに職務質問して、荷物検査を行っている。これは、80年代のイギリスで少数民族に対する人種差別的な対策を行うロンドン警視庁に対する暴動やデモが起きていたことを風刺したもの。無邪気の象徴のような少女ドロシーでも容赦なく検査を行う不条理を描いた作品。


もともと2002年に作成された本作は、バンクシーの作品としては珍しい。というのも、ストリートに登場したのではなく、ブライトンのモーリーストリートにあるナイトクラブ「Ocean Rooms(オーシャン・ルームズ)」の依頼で制作されたものだからだ。全長6mにおよぶステンシルの壁画で、バーカウンターの後ろの空間を埋めるために、サルのモチーフを10回繰り返し描いたものである。それから6年後、当のナイトクラブは壁画を撤去し、50万ドル米ドル近い値段で売却した。本作に描かれるのは、反抗的なメッセージ「Laugh Now, but one day we’ll be incharge(今は、笑え。しかし、いつかは我々が勝つ)」を掲げる仏頂面のサル。バンクシーは、志を同じくする反逆的なアーティストたちと卑しいサルとを同一視している。どちらも、もっとデカいことをやってのける力を持っているのに、そのことに気づかない支配者たちに嘲り笑われる存在じゃないかと。サルが首から提げている看板の重みと、がっくりと落とした両肩、そして疲れ果てたような眼差し。それらが、サルにのしかかる抑圧の大きさを表している。ちなみに、サルは、ネズミと並んでバンクシーの作品に登場することの多いモチーフ。バンクシーは、このような動物たちに、社会風刺に満ちた自らのメッセージを託しているのだ。本作は、こうした作品の中でも特にメッセージ性が強く、これまで多く複製されている。


「セール最終日」を告げる看板の下に、ルネサンス絵画風に嘆き悲しむようにすがる女性たちの姿を描いたこの作品は、まるで宗教と化したような資本主義社会と消費文化への風刺を描いている。もともとは2006年にロサンゼルスの倉庫で開催されたバンクシーのアメリカでの初個展「Barely Legal(ベアリー・リーガル)」(「辛うじて合法」の意)のために制作された作品で、本作は本人のサイン入りシルクスクリーン。


チンパンジーに乗っ取られた議会は、かつて民主主義のモデルと呼ばれたイギリス議会の凋落を描いている。横幅約4メートルのカンヴァスに描かれた油絵画は、2009年にブリストル市立博物館・美術館で開催された企画展「Banksy vs Bristol Museum(バンクシーVSブリストル・ミュージアム)」で初公開された。本作はそのポスター版である。その後、2019年には「ブレグジットで混乱するイギリス下院を予測していた」と話題を呼び、《Devoled Parliament》と題された油彩画が同年10月にサザビーズのオークションに出品された。 バンクシー作品の史上最高値を更新し、約13億円で落札された。


中指を突き立てて威嚇するロンドン警視庁の警官は初期の作品で、バンクシーの元マネージャーのスティーブ・ラザリデスと共同で制作された最初のシルクスクリーンによるプリント作品。黒と白のステンシルで、黒ずくめの制服から白抜きされた中指が効果的に立ち上がっている。警官が威嚇している相手は市民なのか、もしくは腐敗した国家機関そのものなのか。


バンクシーが活動初期から現在に至るまで自らの自画像か署名のように描き続けているドブネズミ(ラット)が筆で大きなハートを描いて愛を訴えている。「彼らは許可なしに生存する。彼らは社会から嫌われ、追い回され、迫害される。ゴミにまみれて絶望のうちに粛々と生きているが、彼らはすべての文明を破滅させる可能性を秘めている。もし君が、誰からも愛されず、汚くて、取るに足らない人間だとしたら、ラットは究極のお手本だ」(Banksy, Wall and Piece, Century, 2005, p.95)


ポニーテールの少女が軍用機用の爆弾を抱きしめているステンシル画。もともとは2003年にロンドン東部の壁に描かれたもの。その後すぐに、ロンドンやブリストルにおけるイラク戦争反対デモ用のプラカードに応用された。戦争で人を殺す武器が玩具のように扱われて描かれていることから、戦争を行う国の幼稚さを表現すると同時に、戦争と愛という二項対立をも表現している。


約50年以上もイスラエル政府の占領下にあるパレスチナ。イスラエル軍の圧倒的な武力に対して投石やゴムパチンコで抗議した運動をモチーフに、男の手には石の代わりに花を持たせたバンクシーの代表作。バンクシーの作家としての思想や活動家としての姿勢を象徴している作品。パレスチナのベツレヘム郊外に描かれたグラフィティは、いまも現存している。


のみの市で安値で売られている無名の画家が描いた田園風景の絵画に、ロンドン市内への車の乗り入れを料金の徴収によって制限する「コンジェスチョン・チャージ」の対象となる区域を示す「C」の標識を描き加えた作品。既存の作品に描き足すことで意味を変えてしまうデトーナメント(転用)の方法を使ったシリーズのひとつ。


もともとの作品は2003年ロンドン市内で開催された史上最大規模の抗議運動「イラク戦争反対デモ」で参加者に無料配布されたステンシル画のプラカードのひとつで、本作はそのステンシルを用いた限定版プリント。レイヴ・カルチャーの象徴であるスマイルフェイスの死神の下に「間違った戦争」と明記され、アメリカ率いる多国籍軍に追従してイラクに侵攻したイギリス政府への批判をストレートに表現した作品。
HISTORY
タイトル横に*のあるものは、本展に出展予定の作品です。
1990
イギリス南西部の港町ブリストルで、グラフィティ・アーティストとして活動を始めたとされる。
2002
ロサンゼルスの33 1/3ギャラリーで個展「Existencilism」を開催。

2003
ロンドンのとある倉庫で個展「Turf War」(湾岸戦争=Gulf Warのもじり。Turf =「芝」や「敷地」の意)を予告なしに開催。スプレーペイントを体に施した牛、豚、羊などの家畜を展示したことで物議を醸した。1 週間開催予定だったが、バンクシーに逮捕状が出されたことで、オープニングの3 日後には閉鎖された。


2005
ベツレヘム郊外に《Flower Thrower》を描き残す(a)。パレスチナの分離壁に作品を描く(b)。MoMA、メトロポリタン美術館などニューヨークの複数の美術館で、自身の作品を無断展示(c)。

©Tetsu Shinagawa

写真:ロイター/アフロ

個人蔵
2006
ロサンゼルスの倉庫で大規模な展覧会「Barely Legal」(「辛うじて合法」の意)を開催。全身にスプレーペイントを施したインド象を展示。3日間で3万人以上が来場した。

2006 個人蔵

2007 個人蔵
2008
ロンドン、ウォータールー駅下の地下トンネルでストリート・アートの祭典「The Cans Festival」を開催。多数のグラフィティ・アーティストが参加した。

2009
展覧会「Banksy vs Bristol Museum」をブリストル市立博物館・美術館で予告なしに開催。100作品以上が展示された本展は過去最大規模で、12週間で30万人を動員した。


2010
初の監督作品『Exit Through the Gift Shop』がユタ州、サンダンス映画祭で上映。米アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネート。
2013
「Better Out Than In」と題した活動を1カ月間実行。ニューヨークで1日1点ストリート・アートを公開、その情報はバンクシー本人のSNSで告知された。
2015
イギリス南西部のウェストン=スーパー=メアに、テーマパーク「Dismaland」(Dismal=「不愉快な」「陰鬱な」の意)を期間限定で出現させた。5週間で15万人が来場。 フランス北部カレーの難民キャンプで、シリア難民の父をもつスティーブ・ジョブズ、《The Son of a Migrant from Syria》を描く。


写真:Shutterstock/アフロ
2016
ロンドンのフランス大使館前に催涙ガスで涙を流している『レ・ミゼラブル』のコゼットとQRコードを描く。QRコードをスマートフォンで読み込むと、フランス警察が催涙ガスやゴム弾で難民を急襲している様子が撮影されたYouTubeの動画にリンクされた。

写真:Shutterstock/アフロ
2017
パレスチナのベツレヘムに「The Walled Off Hotel」をオープンさせる(Walled Off=「壁で隔てられた」の意で、ニューヨークの高級ホテルWaldorfのもじり。別名:世界一眺めの悪いホテル)。現在も営業中。

写真:AFP/アフロ
イギリスとフランスを結ぶ港町ドーバーにて、ブレグジットを風刺した、欧州連合の星を削る作業員の姿を描く。

ロンドンのバービカン・センターで史上初のバスキア展が開催されたことを受け、会場近くに、バスキアのオマージュを2点描く。

Photo by 108UNITED

Photo by 108UNITED
2018
シュレッダー事件。ロンドンのサザビーズで、《風船と少女》落札直後に自身が額に仕込んだシュレッダーにより作品の下部が細断された。

写真:SWNS/アフロ
2019
ロンドン郊外クロイドンにバンクシー初の公式ショップ「Gross Domestic Product(国内総生産)」が期間限定オープン。店には実際には入店できずウィンドウ展示のみ。2週間後にクローズした後は、オンラインショップで展示作品を販売した。

写真:PA Images/アフロ