富山県砺波市の老舗酒造会社が、地域の洋菓子店、福祉事業所とタッグを組んで、新しいスイーツを販売します。
商品名は、「三郎丸蒸留所のウイスキーカヌレ」と「香酒花(かすか)酒粕ティグレ」。
ラムやブランデーを使うことが一般的なカヌレに国内でも高い評価を得ているスモーキーなウイスキーを用いたものと、日本酒を製造する過程で出た酒粕を利用した焼き菓子です。
商品の開発や製造・販売に関わるのは半径100mの距離に収まる“地元”の人々。
地域の人の魅力と想いが凝縮した“濃厚さ”が魅力のスイーツです。
砺波の豪農にルーツ 160年超の歴史を持つ老舗酒造・若鶴
江戸末期の1862年、加賀藩から免許を受けて酒造りを始めた豪農にルーツを持つ酒造メーカー、若鶴酒造。
清酒造りでは昔ながらの「若鶴」に加えて「苗加屋」「玄」といった新しいブランドを立ち上げ、北陸最古のウイスキー蒸留所を再生させるなど、歴史と伝統を生かしながら新しい味わいづくりに取り組んでいます。
「日本酒160年、ウイスキーは70年の歴史がありますが、地域に根差した活動を大切にしていて、さまざまな業種とコラボレーションした商品作りも行っています」
こう話すのは、若鶴酒造の社長兼CEOで、三郎丸蒸留所のマスターブレンダーでもある稲垣貴彦さん。老朽化したウイスキー蒸留所を改修し、県産のミズナラを使った樽や高岡銅器の技術を用いた鋳物製の蒸留器など、「富山でしかつくれないウイスキー」を目指して三郎丸蒸留所を再興した張本人です。
そうして生み出されたスモーキーなウイスキーの味わいは世界的にも高い評価を受け、ボトルウイスキーやハイボール缶は北陸や富山の土産物としても人気を集めます。
地域と共に歩む老舗酒造が仕掛ける新たな挑戦
そんな稲垣さんが新しく仕掛けるのが、今回のコラボレーションスイーツです。
「今回は、同じ三郎丸の地にある店舗や施設と連携して、ここでしか味わえないスイーツを作ることが叶い、大変うれしく思っています」(稲垣さん)
その言葉通り、商品の企画や製造に関わるのは、いずれも若鶴酒造から直線距離で100mもない人たちです。
新進気鋭の若手パティシエの味を求めて朝から行列が絶えない「Patisserie Vert(パティスリー ヴェール)」、そして、砺波市や小矢部市などで障害者の就労や自立支援に取り組む「社会福祉法人 手をつなぐとなみ野」です。
濃厚なショコラに連日行列 気鋭のパティシエ・藤井さん
コラボレーションに参加した「Patisserie Vert」は、2024年9月に砺波市宮丸にオープンした人気店。
オーナーシェフの藤井雄大さんは、パティシエの辻口博啓さんが手掛ける石川県の洋菓子店「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」で修業したのち、同店のシェフパティシエ・藤井幸治さんが七尾市に開業した「パティスリーアメリ」で経験を積みました。
まだ、20代の若さですが、日本最大級の洋菓子コンクール「ジャパンケーキショー」では銀賞を受賞。味はもちろん、繊細な意匠も得意としています。
「ヨーロッパに行こうと思っていた直前、能登半島地震を体験しました。建物が崩壊し、笑顔を失ったまちで、お菓子を無料で配布したとき、たくさんの笑顔に出逢うことができました。その際、地域の笑顔を作ることができる店を作ろうと、ふるさと砺波に戻ってきました」(藤井さん)
濃厚なテリーヌショコラが人気で、連日店の前には行列ができます。
ショーケースの中にはシュークリームやアップルパイ、カヌレなどのさまざまなスイーツも並びますが、週末は昼すぎにすべて完売してしまうことも珍しくない人気店です。
砺波の魅力を日本へ、世界へと目指すコラボレーション
そんな藤井さんが若鶴とタッグを組んで手掛けたのは、三郎丸蒸留所のウイスキーを使ったカヌレと若鶴酒造の日本酒「苗加屋」の酒粕を使用したティグレです。
「世の中が驚愕する、今までになかった商品を作りたい。富山を代表する土産菓子をつくりたいと思って挑みました」(藤井さん)
ありそうでなかった!? ウイスキーを使ったカヌレ
「ウイスキーを使ったカヌレというのは、ありそうでなかった商品です。通常、ラムやブランデーを使うことが多いんですが、ウイスキーも絶対合うと思って作ったら、イメージ通り、納得のいくカヌレができました」(藤井さん)
カヌレの味は、プレーン・チョコ・梅の3種類あります。
プレーンとチョコに使われているのは、三郎丸蒸留所の「SAB.SUNSET RED」。砺波の散居村を赤く染める夕日の景色をイメージしたブレンデッドウイスキーで、落ち着いたウッドやワックスなどを包み込むスモーキー香りに、リンゴやキャラメルなどを彷彿とさせるふくよかで甘味のある味が特徴です。
芳醇なチョコレートとの相性がよく、しっとりとしたカヌレは少しずつ噛みしめるように味わいたくなります。
「ウイスキーとチョコレートの相性は抜群です。チョコレートが入っていますが、常温で持ち運びもできるので、お土産にもオススメです」(藤井さん)
梅味のカヌレには、 ウイスキーに青梅を漬け込んでゆっくりと梅の風味を引き出した「UMESKY(ウメスキー)」 が使われています。生地のしっとり感はそのままで、梅の香りは少し控えめ。ほのかに漂う独特の香りを味わうことができます。
「地元の食材を使いながら、世界の味に昇華することができたと思っています」(藤井さん)
上質な富山の酒粕とフランスの伝統が出会った「ティグレ」
あまり耳にすることのない焼き菓子「ティグレ」はフランスの伝統菓子。現地の洋菓子店でおなじみの商品なんだそう。
「本来はアーモンドの風味を活かしたお菓子ですが、今回は酒粕の香りを楽しめるように作りました」(藤井さん)
若鶴では、これまでも日本酒の製造過程でできる酒粕を使った粕漬けやソフトクリームなども作ってきました。上質な酒粕をもっと違う形で利用できないかと考えていた中で、今回のコラボレーションにもつながったんだとか。
ティグレを噛んだ瞬間、酒粕の上品な香りが口の中にふわっと漂いますが、そこまでクセは強くありません。酒粕の風味が苦手な人でも楽しめる味わいです。
追いかけてくるチョコレートの風味、しっとりした生地のバランスも絶妙です。
包装を担うのは福祉作業所
包装作業は、若鶴酒造すぐそばにある福祉作業所 油田「手をつなぐとなみ野」 が携わりました。
「さまざまな作業に取り組むことは、福祉事業所の利用者にとって大きな励みや自信につながります。工賃向上にもなり、大変うれしく思っています」(作業所職員)
「未来を明るく」「地域の活性化に」 お菓子に込めた2人の想い
「いい商品をつくるのは当たり前、世の中の役に立てるお菓子を作りたい」と話すのは、「Patisserie Vert」のオーナーシェフ 藤井さん。
これからの商品づくりについても、おいしさ以上に社会的な使命を感じています。
「世の中にある地域の社会課題を“食”を通してどう解決できるかを考え、“食”で未来を明るく照らすことができるようなお菓子を作っていけたらと思っています」(藤井さん)
藤井さんに呼応するように、若鶴酒造の稲垣社長さんも地域で連携した今回のコラボレーションの意義を語ります。
「地域の多様な主体が連携することで、さらなる地域活性化につながればと考えています。”地域に拠って、世界に立つ”。そんな想いで作ったお菓子です。コーヒー店と共同開発したバレルエイジドコーヒーと一緒に楽しんでもらえたらうれしいですね」(稲垣さん)
地域への熱い想いが濃厚な味に込められたカヌレとティグレは要冷凍で、砺波市の若鶴酒造にある「大正蔵」で9月13日から販売されます。
まちや人の魅力を感じながら、ゆっくりと味わってみては。



