たかがコーヒー、されどコーヒー。
丁寧にドリップされた1杯のコーヒーを味わう時間はもちろん、店内に流れる空気や店主との何気ない会話も含めて、喫茶店やコーヒーショップで味わうコーヒーには格別なものがあります。
今回紹介するのもそんな店。
富山県高岡市のまちなか、関野神社のすぐ隣に店を構える「MATSUKI COFFEE ROASTERY」です。
自然体の店主夫妻が2人で作り出す、穏やかで心地よい時間。ふらりと立ち寄ればまるで心が解きほぐされるように癒される、静かでやさしいコーヒーロースタリーカフェです。
高岡のまちのシンボル 関野神社横のコーヒーショップ
高岡市の中心部にある関野神社。
高岡のまちを開いた前田利長を祀っていて、毎年5月1日には春季例大祭としてユネスコの無形文化遺産に登録される御車山祭が行われる、高岡のシンボルでもあります。
2025年8月オープン 通りに開けた明るい店内
そんな関野神社のすぐ隣に、2025年8月にオープンしたのが「MATSUKI COFFEE ROASTERY」です。
白を基調にした外観に、木の質感が生きるドアや窓が映える佇まい。通りがかるだけで、思わず中をのぞいてみたくなる存在感があります。
ゆったりとした音楽が流れ、コーヒーの香りに包まれた店内には、カウンター席とテーブル席があります。あたたかな照明が木のテーブルや椅子をやさしく照らし、五感が少しずつほぐれていくのを感じられる空間です。
看護師を辞めて夢を叶える 店を切り盛りする松木さん夫妻
店を営むのは、松木健宏さんと由紀子さん夫妻。
「妻と一緒にコーヒーショップをやりたいなという想いが漠然とあったんですが、50歳を目前にしてこれからの人生をいろいろ考えたとき、『今だ』と思いまして…」(健宏さん)
健宏さんは30年近く、看護師として勤めましたが、仕事を辞めて夢だったコーヒーの道へと進みました。そんな健宏さんを支えるのは、コーヒーショップで10年以上勤めていた経験を持つ妻の由紀子さんです。
「コーヒーの焙煎って、人柄が出ると思うんです。主人らしさがあふれる焙煎を楽しんでもらえたらうれしいですね」(由紀子さん)
コーヒー豆はシングルオリジンの8種類
メインとなるコーヒー豆は全部で8種類。
世界各地の農園で育まれた単一産地のコーヒー豆、いわゆるシングルオリジンの豆を厳選し、松木さんが時間を惜しむことなく丁寧に自家焙煎しています。
「インパクトよりも毎日飲みたいと思えるものを」
丁寧な自家焙煎とハンドドリップで味わうコーヒーの時間
「インパクトのある1杯というより、毎日飲みたいと思えるコーヒーを提供したいと思ってるんです」(健宏さん)
どのコーヒーにするか迷った末に、健宏さんのお気に入りだという「エチオピア ウォシュド」を注文しました。
店先の焙煎機で自家焙煎した豆をミルで挽き、ゆっくりとハンドドリップで抽出していきます。
その味わいはーー
確かに、飲みやすくて、味わいがクリア。苦みや酸味が前に出すぎることはありません。それでいて、コーヒー本来の豊かな香りをしっかりと堪能できます。
注文から飲み干すまで。
コーヒーの味そのものも上品ですが、目の前でドリップされてコーヒーが溜まっていく様子や焙煎機から漂う香ばしいにおい、ミルの音やカップとソーサーの響きまで、そこで流れる時間すべてがコーヒーの楽しみに変わっていく贅沢さがあります。
コーヒーの魅力を引き立てる 手作りスイーツ
コーヒーと一緒に味わいたいのが、由紀子さん手作りのスイーツ。
「主人のコーヒーに寄り添えるお菓子を意識して、あえてシンプルに仕上げています。米粉や甜菜糖、米油を使っているので、しっかり満足感はありながら、後味はとても軽いんですよ」と由紀子さん。
実は由紀子さんは腸活アドバイザーでもあるんだとか。
グルテンフリーの食材選びなど、体へのやさしさも考慮しながら、コーヒーの魅力を引き立てるスイーツを作っています。
メニュー表には載っていない 手間暇かけた「プリン」が人気
メニューには、チーズケーキ、チョコレートケーキ、りんごのカントリーケーキと書いてありますが、実はここには載っていない人気のスイーツがあります。
それが、「プリン」。
手間暇がかかるため、由紀子さんが『今日は焼くぞ!』と意気込む日にしか登場しないんだとか。幸運にも、この日はお目にかかることができました。
プリンはしっかり弾力のある、硬めのタイプ。
スプーンを入れると、跳ね返るような弾力が手に伝わってきます。
口当たりはなめらかで、卵の風味が生きた甘さ控えめ味わい。苦すぎず、甘すぎないカラメルともよく合います。もちろん、コーヒーとの相性も抜群です。
「息抜きできた」というお客さんの言葉が励みに
「お店を始めるとき、お客さんのターゲットを絞ったほうがいいと言われたんですが、『絞りたくないです』って言ったんです。年齢に関係なく、いろんな方に足を運んでもらいたいと思ってます」(由紀子さん)
松木さん夫妻の願い通り、20代の若者も、年配の人も、近所の人も、旅行客も、参拝客も訪れます。なかには、看護師時代の仲間や患者さんが訪ねてくることも。
「松木さんの物腰のやわらかさや、人を包み込むようなやさしさは天性のもの。看護師はまさに天職だったと思うんですけどねぇ…」と、名残り惜しげに教えてくれたのは、健宏さんの看護師時代の上司で、今では店の常連客という女性です。この日も当直明けに、ふらりと店を訪れていました。
店内に漂う、言葉にしがたい居心地のよさ。
それはきっと、松木さん夫妻から自然とにじみ出るやさしさそのもの。言葉の一つひとつにはぬくもりがあり、訪れる人の心に寄り添うように、そっと受け止めてくれます。
「『ここにきて、息抜きできた』っていうお客さんの言葉を聞くと、うれしいですね」(健宏さん)
毎朝、関野神社へのお参りを欠かさないという松木夫妻。
「大したことは言ってないですよ。今日も1日よろしくお願いします、っていう感じですかね」と、飾らない笑顔でほほ笑む健宏さん。
まるで保健室のように、静かに心が整っていく——。そんな不思議な魅力を持つコーヒーロースタリーカフェです。



