師走のこの時期になると、食べたくなるのが蕎麦。寒くなってくるとあったかい出汁の香りについつい吸い寄せられますし、大晦日は年越し蕎麦で締めるという人も多いでしょう。
麺のように細く長く生きられるように長寿を祈願するという説、切れやすい麺に厄災を断ち切る願いを込めるという説、大掃除で忙しい時期にパッと手早く済ませられるという説などなど、年越しに蕎麦を食べる理由はいろいろあるようです。2025年は江戸の町民文化を扱った某大河ドラマの影響で、気風のいい江戸蕎麦の食べ方も話題になりました。
今回は、富山県射水市の大門エリアで地域に愛される老舗の蕎麦店「麺房みなみ」を紹介します。年越し蕎麦はもちろん、普段の食事や外食時の家族の団らんにも利用される店です。
1953年創業 2代にわたって愛される老舗蕎麦店
店があるのは、高岡の駅南と射水市大門・小杉エリアを結ぶ県道の高岡青井谷線沿い。
大門総合会館やドラッグストア、スーパーマーケットなどが立ち並ぶ、この地域の中心部です。
広々とした店内にはカウンターとテーブル席があり、ひとりでも大人数でもゆっくりと食事を楽しめる空間が広がっています。
地域のシンボル 曳山の車輪が鎮座 堂々とした風格
創業は1953(昭和28)年。
フロアの中央奥には、地元・大門町で100年以上の歴史がある曳山の車輪が飾られていて、まちの移り変わりを長く見守ってきた老舗店ならではの風格も感じます。
「このあたり、昔は製麺所が何軒もあったんですが、今では少なくなりましたね」と話すのは、2代目店主の南 幸博さん。
東京の映画会社で働いていましたが、家業を継ぐために帰郷し、初代の味を受け継ぎました。今ではすっかりその腕を認められる、老舗の店主。伝統の味を守りながらも、時代の変化に対応しながら、独自の製麺法を築きあげています。
ひと目でわかる“黒さ”が特徴 「挽きぐるみそば」
「栄養価と香りが高い」 殻と甘皮の間の蕎麦粉もたっぷり使用
「麺房みなみ」の蕎麦は、ひと目でわかる“黒さ”が特徴。
ソバの実の芯の部分だけを使う更科蕎麦の上品でやわらかいのどごしとは違い、しっかりした香りと味で麺も太めの田舎風です。
「信州から取り寄せた2種類の蕎麦粉をブレンドして使ってます」と、南さん。
ひと口に蕎麦粉といっても、種類や製粉、挽き方によって、風味や香りはまったく異なるものに…
「うちは、蕎麦殻と甘皮の間にある、栄養価が高くて香りもいい黒みががった蕎麦粉もたくさん使ってるんです」(南さん)
平打ち太め 野趣あふれる蕎麦
蕎麦打ちの工程にも、職人ならでは個性が色濃く反映されます。
加水率(水の量)や温度、水を蕎麦粉に均一に行き渡らせる「水回し」、「菊もみ」と呼ばれる練りの技術など、一つひとつの作業に職人の感性が光り、その人にしか生み出せない蕎麦へと仕上がっていきます。
南さんが作る蕎麦は、黒く光り輝くという言葉が大袈裟ではないほど、色濃く艶のある麺。
つゆにつけずに食べてみると、平打ちでやや太めの麺を噛むたびに香りが広がります。野趣たっぷりの味わいにしっかりしたコシ、つるりとした舌触りが心地よい食感です。
蕎麦好きなら、しばらく麺だけで楽しみたいほどの味わいですが、今回はこの時期の一番人気「鴨せいろ」を注文しました。
冬の人気は脂の甘みに癒される「鴨せいろ」
数種類のカツオ節と昆布でとったつゆに、鴨の脂が溶け出したあたたかい鴨汁は味わい深く、風味豊かな香りが口いっぱいに広がります。
鴨汁に蕎麦の先端を少しつけて一気にすすると…
アツアツのつゆのうま味をまとった蕎麦は少し熱を帯び、食感が少しソフトに。
鴨肉、焼きネギとのバランスもよく、そこに柚子胡椒のアクセントも加わり、まさに冬のごちそうです。
「鴨肉は鮮度が落ちやすくてすぐ臭くなっちゃうのですけど、食べてみてどうでした?」と、南さん。その表情からは、丁寧な下処理をしているからこその自信も垣間見えます。
確かに、臭みはまったく感じません。しっかりとした弾力と歯ごたえを楽しんでいると、鴨肉独特のうま味がにじみ出てきます。
鴨せいろは、ライスがついたセットもオススメ。ライスに鴨汁をかけると、即席なのに特製の鴨汁おじやを味わえます。
残った鴨汁にはそば湯を入れると、最後の1滴までおいしく飲み干せます。
つゆのうま味がしみ込んだ“蕎麦屋のかつ丼”も
蕎麦に負けず劣らず人気なのが、「かつ丼」。
大きくて厚みのあるカツは食べごたえ抜群。パン粉には甘めのつゆがしっとりとしみ込み、“蕎麦屋のかつ丼”ならではの味わいを楽しめます。
「学生時代に東京のそば屋で食べたかつ丼が、ボリューム満点でおいしくてね。あの時の感動を届けられたなと思って作ってます」(南さん)
創業72年。世代を超えて長く愛されるのは、感動を届けたいという店主の想いがあるからこそ、なのかもしれません。
「私、剣道やってるんですが、面打ちしかしないんですよ」と、茶目っけたっぷりの笑顔で教えてくれた南さんはなんと剣道7段の腕前なんだそう。
メン打ち一筋の老舗蕎麦店で、年末の“特別な1杯”を味わってみるのもオススメです。



