富山県北西部、能登半島の付け根に位置する氷見市。
富山湾越しに立山連峰を臨む美しい海岸に港が置かれ、古くから水産業が盛んでした。特に、冬の味覚の代表格「ひみ寒ぶり」は身が大きく脂がのったブランド食材としてその名を全国に響かせています。また、山の幸にも恵まれ、県内を代表する野菜や果物の生産地として知られるほか、ブランド牛の氷見牛は流通量こそ少ないものの美味の誉れ高く、地元が誇る特産物です。
ただ、氷見の人が毎日、ぶりや牛肉を食べているかと言うと、当然そんなことはありません。
高級な食材でなくてもおいしい食や自然の恵みに囲まれ、ゆたかな風景に心を打たれるーーそんな“氷見の日常”を体感できるのが「HOUSEHOLD kitchen」です。
食を通して“まち”を楽しむ 海辺の宿「HOUSEHOLD」
「HOUSEHOLD kitchen」があるのは、県内でも有数の漁獲高を誇る氷見漁港のほど近く。
まちなかを流れる湊川が富山湾へと合流する辺りで、見通しがよければ海越しに北アルプス立山連峰を望むことができるロケーションです。
呉服屋だったという4階建てビルをリノベーションし、小さな宿泊施設として「HOUSEHOLD」がオープンしたのは2018年です。
「“HOUSEHOLD”は家庭と訳しますが、一緒に食事をし日々の暮らしをともに支えあう人の集まりという意味があります。まちの営みはたくさんある家庭の営みの集合体でもあり、ひとつの大きな家庭とも解釈できます。わたしたちは、氷見を訪れる人とこの営みの中継点になりたいという想いからHOUSEHOLDという名前をつけました」
こう話すのは、富山市出身のオーナー 笹倉慎也さん。前職はWEBディレクターで、しばらく東京で暮らしていましたが、仕事で氷見を訪れたのをきっかけに奥さんと一緒に移住することを決めました。
「豊かな自然や食もそうなんですが、氷見で暮らす人や生産者との距離感がとても気に入っています」(笹倉さん)
1日3組限定 普段の暮らしを体感
1日3組限定の小さな宿のコンセプトは「料理を通してまちを楽しむ」。
「プロがつくった食事を楽しむのもいいですが、その土地の旬の食材を手に入れ、自分たちで料理をして楽しむ。料理をすることそのものがこのまちの豊かさを一番味わえると思っています」(笹倉さん)
そんな笹倉さんの狙いから、HOUSEHOLDで提供しているのは朝食のみ。代わりに、施設には宿泊者が利用できる共有キッチンを設けています。
食材の買い出しにつきそうオプションツアーもありますが、宿泊者自ら、まちのスーパーで買い物を楽しんだり、まちなかの飲食店で地元料理を味わうのもオススメだそうです。
「観光地としての氷見ではなく、海辺の人たちの普段の暮らしを、料理を通して体感してもらえたらと思っています」(笹倉さん)
宿併設のカフェで日常のおいしさを 「季節の定食」
そんな「HOUSEHOLD」のコンセプトを気軽に体感できるのが、1階にあるカフェ「HOUSEHOLD kitchen」。
ランチタイムには、氷見で採れる旬の食材をたっぷり使ったおひるごはん「季節の定食」を味わうことができます。
年季の入った茶碗やお椀、そして箸にも普段の“日常”を感じる設え。そんな日常こそがぜいたくなのだと再確認させてくれる丁寧な定食です。
氷見産のコシヒカリは粒の食感がほどよく、噛むほどにお米の甘みを堪能できます。富山県産の米麹を使った味噌汁も身体にスーッと染み込んでいくおいしさ。
ワンプレートで運ばれてきたおかずは7品。
塩麹を使った焼売は肉のうま味を活かした味付けで、黒酢と生姜が効いた玉ねぎダレがいいアクセントになっています。
甘みたっぷりのかぼちゃサラダにはほどよくシナモンが効いていて、クセになる味わい。
醤油麹で味が調えられたつるむらさきのおひたし、甘酢漬けのパプリカ、魚醤で炒められたゴーヤなど、どれもじっくりと味わうほどに幸せを感じるおいしさです。
カフェタイムは氷見のフルーツたっぷりのスイーツを
カフェタイムは、コーヒーやジュースなどの飲み物、氷見産の果物を使ったスイーツなどを楽しめます。
通年で楽しめるメニューで人気なのは、「イートンメス」。
メレンゲとクリーム、ストロベリーで作るイングランドの伝統的なデザートで、HOUSEHOLDでは、氷見や近隣でとれる旬のフルーツを使って提供しています。
旬と伝統を味わう「イートンメス」
取材で訪れた日は、氷見市の山間にある「くまなし長谷川果樹園」で栽培された大粒ネクタリンが使われていました。
サクサクっとしたメレンゲとオリジナルクリーム、ほどよい酸味と固めの果肉が魅力的なネクタリンが積み木のように積まれていて、どこから食べようか迷いますが、その時間すら幸せでぜいたくです。
オリジナルクリームは甘さがひかえめでとってもなめらか。クリームだけで味わったり、サクサクのメレンゲと一緒に食べたり、ほどよい酸味のネクタリンとほおばったり、3通りの楽しみ方で満喫しました。
「長谷川さんは、ネクタリンを作りたくて果樹園を始めたそうです。5年を超える試行錯誤を経て、ようやく実った念願の果実だと聞いてきます。暑さや忙しさに疲れた体をやさしく癒してくれる、ご褒美のひと皿だと思います」(笹倉さん)
これからの時期は、くまなし長谷川果樹園のイチジクを使った「イートンメス」もオススメなんだそう。
笹倉さんが魅了されたという“氷見の日常”。時間に余裕を持って、ゆったりと味わいたいものです。



