富山県西端のまち、小矢部市。散居村で知られる砺波平野の西に位置し、小矢部川の恵みを受けた稲作のほか、山間部では養鶏や牛の放牧、林業なども盛んな自然豊かなまちです。
そののどかな田園風景の中に、昔ながらの料理を伝承する食品製造の会社があります。
「田悟農産(でんごのうさん)」です。
米農家でもある田悟農産は「生産から販売まで」をモットーに小矢部の郷土料理を手作りしていて、どれも昔からこの辺りの家庭で作られてきた“おふくろの味”ばかり。
素朴であたたかみを感じる味わいが自慢です。
腕を振るうのは、地場の食材を活かした創作料理や地域で育まれてきた伝統的な郷土料理について知識や技能を持つと認定された「とやま食の匠」の田悟敏子さん。
「田悟農産」の多くの商品を手作りする傍ら、イベントなどでは郷土料理の教室も行い、ふるさとの味を伝承しています。
農作業から生まれた小矢部の伝統料理「にしんの糀漬け」
「田悟農産」の創業のきっかけとなったというのが、小矢部で古くから親しまれる郷土料理「にしんの糀漬け」です。
毎年、梅雨の時期に作り始めて、自家製の味噌で漬け込みます。
3~4か月かけて熟成することで糀とにしんの旨みが凝縮され、体にじーんと染み込むようなおいしさになります。
水分が飛んだにしんの身はほどよく硬く、噛むほどに滋味深い味わいがあふれます。
小さなひと切れでしっかり塩味が効いているので、お酒の肴や白いごはんのおともによく合います。
北前船で北海道から入った魚肥が発酵食品に
実はこの「にしんの糀漬け」は、田んぼの農作業と切っても切れない関係。
夏の屋外での作業の塩分補給や冬の栄養源として親しまれてきましたが、その歴史は江戸時代の北前船の交易までさかのぼります。
小矢部ににしんがもたらされたのは、もともと田んぼの肥料として使う魚肥としてでした。北前船で北海道から仕入れられた昆布や干し魚、そのうちのひとつに魚肥として使われたにしんがあったのです。
そのうち、栄養価の高いにしんを活かしたいと考えた地元の女性たちが作ったのが「にしんの糀漬け」なんだそう。農村でわずかな食材をできるだけ無駄なく利活用したいという、当時からの強い女性たちの精神が感じられます。
田祭りのおもてなし 「笹寿し」
もうひとつ、小矢部の稲作とゆかりが深い特産品が「笹寿し」。
サバやマスの切り身を酢飯にのせ、笹で包んで押し寿司にする郷土料理です。
「田悟農産」では自家栽培の県産米・富富富と地元・稲葉山の裾野でとれる笹を使用しています。
サケやミョウガを使うこともあって、毎年6月10日に行われる「やすごと(田祭り)」で食べられるのが小矢部のならわし。笹のさわやかな香りと酢飯のさっぱりした味わいで、食欲がなくなりがちな梅雨から夏の時期でも食べやすいのが特徴です。
笹を開いてみないとサバの寿司かマスの寿司かわからないため、子供たちにも人気。
「これは何の魚かな?」と会話しながら家族そろって食卓を囲むのも、この時期の風物詩です。
富山や金沢の郷土料理 「ゆべし」
こちらは、富山や石川で食べられる郷土料理「ゆべし」。
溶いた卵を醤油味の寒天で寄せたもので、昔は卵がぜいたく品だったことから祝いの席や祭りなどの特別な日にだけ食べられるごちそうでした。
「田悟農産」のある小矢部などでは和菓子のゆべしに似ていることからこの名前で呼ばれていますが、地域によっては同じように見た目が似ている「べっこう」や、「えべす」「えびす」などと呼ばれます。お隣の石川県では、「べろべろ」なんて呼び方もあるんだとか。
「田悟農産」では、昔から田悟家に伝わる富士山型の容器を使用するのが特徴です。
ふんわりと卵の花が咲いたような見た目はいかにも縁起がよさそうで、食卓を華やかに彩ってくれそうです。
味付けは家庭によって違いますが、田悟農産のゆべしはほんのり甘みがあります。よく冷やして、家庭の夏のおやつとしても親しまれる味です。
郷土料理や、伝承料理は、年々家庭で手作りする機会が減る傾向にありますが、その一方で年齢を重ねるごとに好きになったり恋しくなったりするもの。
「田悟農産」ではこのほかにも、かぶら寿司やかきもちなど季節ごとに愛されてきた郷土の味を作り続けています。小矢部市内のスーパーや道の駅などで購入できるので、観光がてら少し懐かしさに浸ってみるのもいいかもしれませんね。
出典:KNBテレビ「いっちゃん☆KNB」
2025年7月29日放送
記事編集:nan-nan編集部



