富山市の東田地方(ひがしでんぢがた)。住宅や企業が集積する富山の昔ながらの下町に半世紀以上にわたって愛される食堂があります。
昔から姿を変えないその店は、5年ほど前に“絶滅の危機にある絶品グルメ”をテーマにしたドラマの舞台にもなりましたが、今もまだ健在。高齢でも現役の店主と娘が、店の名物となっている味を守り続けています。
半世紀愛されるメシは絶滅しない 富山の下町食堂「ポーク」
「お店を続けているのは、健康のため、家族のためかな」
こう話すのは、富山市にある老舗洋食店の店主 岩田隆夫さん。
御年88歳。白くて立派なまゆ毛とやさしい笑顔がトレードマークです。
店の名前は、「お食事処ポーク」。
1968(昭和43)年、富山市の中心部にある富山市東田地方の雪見通り沿いに開業しました。
店頭の看板の上には青いパトランプ。このランプが点いていれば、営業中の目印です。
そういえば、昭和の時代、パトランプが回っている店って、たくさんあったような…。
当時の面影を今も残すものがもうひとつ。
それが、お皿です。当時はこの場所にあった日本赤十字病院の目の前だったことから、赤文字で「日赤病院正門前」の文字と電話番号が書かれています。1996年に日赤病院は移転しますが、今もお皿はそのままです。
「この皿も数がずいぶん少なくなってきまして、印字されたお皿で出てきた方は、ラッキーかも」と、高齢の岩田さんとともに店を切り盛りする娘さんが教えてくれました。
老舗洋食店のイメージそのままの店内には、カウンター席と小上がりがあり、どの席についてもしっくり落ち着きます。
ほとんどの客が頼む名物「ポーク風ライス」
一番人気は、「ポーク風ライス」。
メニューの説明書きは…「かくし味で甘みを増した炒めご飯の上に とろ~り半熟たまごと絶品ポークカツをトッピング」。洋食でありながら定食的な独自の発展を遂げた日本の洋食って感じ、伝わりますかね? そういえば、昭和のころに普通だった“焼き飯”とか“炒めごはん”、今は言わなくなりましたね。
チャーハンでもピラフでもない “炒めごはん”
目の前に運ばれてきたのは、確かに、チャーハンでもピラフでもない、炒めごはんという表現がしっくりくる焼き飯。具材は、ソーセージやエビ、玉ねぎ、マッシュルーム、それに、グリンピースです。
ポークカツは脂身が少なく、ひと口サイズ。
ジューシーなポークの旨みが口いっぱいに広がります。
炒めごはんの塩味と半熟たまごとのバランスも絶妙。長く愛され続けてきた理由がよくわかる納得のおいしさです。
野菜たっぷり 酒粕入りのとん汁も
「ポーク風ライス」と並んでこの店の名物となっているのが、とん汁。
岩田さんが毎朝、大きなフライパンで仕込んでいます。
野菜たっぷりで、白菜・キャベツ・玉ねぎ・ニンジン・白ネギ・ジャガイモ…もちろん、豚肉も厚みがあって具だくさん。
酒粕が入っているのが特徴で、野菜や肉の旨みと甘み、そして酒粕のほのかな香りがじんわりと身体に沁み入ります。野菜不足の人にもうれしい、栄養バランス最高のとん汁です。
いつまでも変わらない味と店主の想い
長く40種類以上のメニューを提供してきましたが、ともに店を営んできた奥さんが他界してからは、メニューを絞り込み、営業を続けています。
御年88歳の岩田さん自身も病気を繰り返し、足腰の衰えを感じています。それでも、できる限り営業を続けたいと目を細めます。
「家にいてもやることないでしょ。自分の健康のためにやってます。子供たちに迷惑をかけたくないから、元気でおらんとね」
こう話す岩田さんを、隣でやさしい笑顔の娘さんが見守っていました。
半世紀以上、受け継がれるポークの味。
1年前にやむなく値上げしたといいますが、それでも一番人気のポーク風ライスは700円。とん汁をつけても800円です。
「父は、サラリーマンのみなさんが食べに来てくれているから値上げしたくないんだそうです。お米が高くて大変なんですけどね」
そういって苦笑いの娘さんですが、Instagramで店の情報を発信し続けています。
「まだまだ頑張るぞ!と話す店主とお客さんが少しでも繋がればと思い、インスタを始めました」「おじいちゃんコックが、毎日頑張ってます」など、岩田さんへの愛情あふれるコメントもたくさん綴られています。
テレビドラマの舞台にもなった「お食事処ポーク」には、常連さんはもちろん、県外から訪れる客も少なくありません。
自分のため、家族のため、お客さんのために、と厨房に立ち続ける岩田さんの笑顔に、こちらも自然と笑みがこぼれる店です。



