この連載は、富山県公衆浴場業生活衛生同業組合が行ったスタンプラリーで全45軒を制覇し、「富山銭湯マイスター」の称号を手にした会社員「やまとさん」が、日々の銭湯めぐりや強く惹かれた入浴体験をつづる不定期連載のコラムです。
#7 川合田温泉サウナ部
「富山銭湯マイスター」の端くれとして、銭湯は“地域の社交場”であってほしいし、地域のカルチャーのひとつであってほしい。
その想いにいささかの偽りもないのだが・・・一方で、いざ自分が銭湯を利用するときは「あわよくば利用客が少なかったら、広々と銭湯を楽しめる。心置きなくリラックスできる」なんて下心があるのもまた事実だ。このささやかな矛盾を抱きながら、今日も私は銭湯の湯舟に浸かっている。
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休日だったその日、15時過ぎに野暮用を終えると、後には特段の予定も入っていないことに気付いた。こんなときこそ、明るいうちからサウナでリフレッシュしたいもの。しかし、もうひとつ何か特別感が欲しい。そう、できることなら静かなところでゆっくりと。贅沢なひとりの時間を楽しみたい。
とはいえ、ここで安易に「個室サウナ」に走るのも何か違う。何より、ちょうど給料日前だ。あいにくと懐は心許ない。
そこで私にひとつの考えが浮かぶ。目指すのは、南砺市の山あい。知る人ぞ知るサウナーの秘境、「川合田温泉サウナ部」だ。
“世界のムナカタ”こと、版画家・棟方志功の作品の収集・展示でおなじみ、南砺市立福光美術館が建つ国道304号沿い、屋号を記した看板を目印に斜面を下りると、川合田温泉が姿を現す。まさに秘境の温泉宿と呼ぶにふさわしい佇まいだ。
「サウナ部」があるのは、宿の正面入り口に向かって左側。別棟になった建物だ。
年季の入った看板に、入り口は半分が赤く塗られた昔ながらのアルミドア。事前情報なしにこのドアを開けるのは、いささか勇気がいることかもしれない。
階段を上り、受付を済ませて入場すると、ちょうど先客の老紳士が浴場に入っていくところだった。あいにく独り占めは叶わなかったが、わずかな人数で静かな空間に浸れるのはほぼ狙い通り。湯に集中するとしよう。
これまた年季の入ったブリキのロッカーに備え付けの貸タオルを持って、いざ浴場へ。
場内は温泉と水風呂のふたつの浴槽を含めて、8~10畳ほどの広さだ。シャワー付きの洗い場は、3つ。総じてコンパクトな造りだ。ガラス窓からはすぐそばの駐車場のようす、さっき停めた私の車がはっきり確認できる。人っ気はなく、誰と目が合うわけでもなかったが、きっと窓の外からも私の裸が秋に染まり始めた山里の景色の中に溶け込んでいたことだろう。
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老紳士は既にサウナに入っていた。ならば、浴場は独り占めだ。身体を洗い、髪を洗って、湯に浸かる。湯は熱すぎない見事な適温で、湯ざわりもよい。曇り空ではあったが、ガラス窓から差し込む外光のおかげで、浸かる湯の心地よさはより一層だ。やはり明るいうちから入る銭湯は格別である。
そのうち、ふーっという大きなため息とともに老紳士がサウナ室から出てきた。お互い、この日がはじめましての関係だが、それはまるで同志ならではの阿吽の呼吸。暗黙のうちに選手交代と相成った。水風呂に浸かろうとする老紳士を横目に、タオルでサッと水気をふき取り、いざ入室した。
ここ、「川合田温泉サウナ部」のサウナ室にはテレビがない。
その代わり、ラジオが流れている。
以前訪れたときは、聴こえるか聴こえないかのギリギリのボリュームだった覚えがあるが、この日はラジオから流れる音をクリアに聞き取ることができた。地元ローカル局の夕方のニュースだ。
2段構造、詰めれば6人くらいは入るであろうサウナ室は、適湿適温。何なら上段スペースでちょうどいいぐらいの熱さかもしれない。タオルを被り、じっとひとり、サウナと向き合う。女性アナウンサーが5分枠のニュースを読み終えるころ、額を拭うくらいには汗が流れて来た。やがて先の老紳士がピットイン。しばしの間、ふたりで「黙サウナ」の時間を共有し、再びの選手交代となった。
水風呂は近くの川の水を汲み上げていて、ごく稀に葉っぱや木くずのようなものが混じっている。野趣に富んではいるが、水そのものは透明。何よりも季節柄なかなかにシャープな冷たさがたまらない。
場内には“ととのう”ためのガーデンチェアが2脚用意されているが、「川合田温泉サウナ部」といえば、昭和感溢れる休憩室だろう。ゆったりと腰を掛けられる花柄カバーのソファ、そして、寝転がることができる簡易ベッドのようなものもズラリと並んでいて、サウナ室の収容人数よりも多い。身体の水気をふき取り、備え付けのタオルケットを敷き、ごろんと寝転ぶ。浴場内でも、屋外でもない、独立した休憩室にタオル1枚だけ、全裸でくつろぐというのは独特の感覚だが、そのうち、まるでそこが実家のような居心地になる。サウナとは実に不思議なものだ。
南砺市福光の山あい、川合田温泉サウナ部。
浴場の天井パネルはたわみ、隙間ができて古めかしいところはある。が、サウナ施設としてのクオリティは高い。他の施設では、2セット目以降は「よし!」と気合を入れ直して臨むこともあるが、ここは2セット目、3セット目と、自然に身体が「おかわり」を求めてしまう。
古くてもきちんと整備されたサウナ室、澄んだ水風呂、ガラス窓から見える山あいの景色、そしてゆったりと落ち着く休憩室。すべてが一体となっての心地よさなのだろう。
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さて、先の老紳士。どうやら水風呂上がりの休憩時間がとても短い。私がようやく3セットを終えたころ、少なくとも倍の6セットはこなしている。人それぞれの“ととのい”があるだろうし、何より「おかわり」したくなる気持ちもわかるが…。
「無理だけはしないでくださいね」
再びサウナ室に向かう、その背中に無言のエールを送り、私は浴場を後にした。



