この連載は、富山県公衆浴場業生活衛生同業組合が行ったスタンプラリーで全45軒を制覇し、「富山銭湯マイスター」の称号を手にした会社員「やまとさん」が、日々の銭湯めぐりや強く惹かれた入浴体験をつづる不定期連載のコラムです。
#1 マルトミ鉱泉
富山市呉羽。丘陵に沿って網の目のように張られた坂道の途中、古くから住宅街で愛されるマルトミ鉱泉。
ある日、髪を洗っていると、背後をペタペタと、軽い足音が近づいては離れ、近づいては離れを繰り返している。音の主は風呂に飽きたのか、 流し場をクルクルと何周も回っていた。小学校の、 低学年くらいだろうか。
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入浴剤でピンクに染まる湯に浸かると、そこは熱くもなく、 ぬるくもなかった。ちょうどいい温度の湯。実はこれが一番難しい。自宅の風呂ならいざ知らず、さまざまな人が訪れる銭湯で自分好みの温度の湯に出会えるというのは、ただそれだけで幸福なことなのだ。
バイブラの気泡も相まって、 デスクワークで凝り固まった身体がゆっくりと解けていく。
視線の先、一面の大きな窓ガラスの向こうには日本庭園。灯籠、滝、 水車、石橋がバランスよく並ぶ見事な造りは、 いつか明るいうちに見てみたいものだ。
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「最後に10秒浸かってきなさい。」
だるんとくつろいでいた浴場に、誰かの号令が響く。同時に、さっきのペタペタという足音が侵入してきた。
「123456789、10!」
実質3秒の10カウント。
まあ、そうだよな。君くらいの歳は、そうだよな。
おじさんも昔は、 お風呂入るのが面倒だったよ。
親子は脱衣場へと消えていった。
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誰に命令をされるでもなく、ゆっくりと湯に浸かったあとはサウナへ。
丁寧に水気を拭き取り、サウナ室の扉を開ける。
室内の温度計は56℃。 それでも数字以上にしっかりした熱さを感じる。
風呂を好きになったのはいつからだろうか。
自分でも気づかないうちにサウナも好きになっていた。
それに加えて、最近では、昔から続く銭湯のクラシカルな雰囲気がたまらなく好きになっている。
身体を洗って綺麗にする、湯に浸かってあたたまる…いや、それだけではない。
裸でぼーっとする時間が、オトナには必要なのだろう。「 ととのう」とはよく言ったもんだ。
ここのサウナ室の窓ガラスからは脱衣場の様子が見えるようになってい る。さっきの少年は、パンツ一丁でロッカーのまわりを忙しそうに駆けていた。
君は元気だなあ。
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外に出ると辺りは暗かった。向かいの食堂はまだやっていた。
噂には何度も聞いたことのある有名店だが、小生は未開拓の店。
入ってみるか。
地元出身の力士が小さな頃から通いつめたという人気の店。彼の好物だという唐揚げ定食を食べて帰ることにした。



