“最後の秘境”に築いた超巨大建造物
完成当時の60年前の貴重映像で知る黒部ダム
堰堤の高さが日本一を誇る黒部ダム。
1963年6月5日の完成から60年、人間で言うと“還暦”にあたる節目の年を迎えました。
現在でこそ立山黒部アルペンルートで人気の観光地となっている黒部ダムですが、3000m級の山々が連なる北アルプスの立山連峰と後立山連峰に挟まれた黒部峡谷はそれまで容易に人が足を踏み入れられる場所ではなく、日本の“最後の秘境”と言われていました。
そんな未開の地に作られた日本最大級のダムは、有名な映画『黒部の太陽』にも描かれている通り、戦後日本の経済復興をかけた一大プロジェクトであり、大自然に人間が挑んだ世紀の大工事でもありました。
そもそもどうして黒部ダムは作られた?
60年前、高度経済成長期の真っ只中にあった日本は、急速な重工業化とは裏腹に電力不足に悩まされていて、安定した電力の確保が大きな課題となっていました。
そこで計画されたのが、日本一深いV字峡谷や世界有数の豪雪地帯という立地から、豊富な水量と大きな落差により大きなエネルギーを得られる黒部ダム(黒部川第四発電所、通称「くろよん」)です。
しかし、水力発電に適しているとわかってはいるものの、厳しい自然条件から難工事が予想されるのも事実。戦前から何度も構想と失敗を繰り返していた黒部峡谷で実際にダム工事が始まったのは1956年でした。
それから7年もの歳月をかけて、ようやく黒部ダムは完成したのです。
総工費は当時のお金で513億円、現在の価値にして2000億円を超えます(※消費者物価指数から概算)。
工事には延べ1000万人もの人手を擁し、171人の尊い犠牲も伴いました。
戦後日本の経済復興を象徴する黒部ダム。
堰堤の高さは186mと60年経った現在でも日本一を誇り、その存在は色あせることはありません。むしろ、脱炭素社会に必要不可欠な自然エネルギー電源や観光資源として、今後ますますその存在価値は高まるのかもしれません。
- 黒部ダム
堰堤の高さは186mで、日本一のダム。長さ(堤頂長)は492mで、アーチ式コンクリートダムとしては日本一。
総貯水容量は約2億トンで、東京ドーム約160杯分を貯水しています。
黒部ダムへの行き方は?
乗り換え移動が楽しく絶景の富山ルートと短時間で行ける長野ルート
黒部ダムは、3000m級の山々が連なる中部山岳国立公園内を横断する立山黒部アルペンルートにあり、富山側と長野側の両方からアクセスできます。
スピード重視なら長野県側からが便利
短時間で辿り着きたいなら、長野側からのアクセスが最適です。
玄関口となるのは、長野県大町市の扇沢駅。
そこから電気バスで関電トンネルを進むこと約16分。あっと言う間に黒部ダムに到着です。
東京駅から新幹線や高速バスなどを乗り継いで来るとしても、4時間程度で日本最大級のダムを見ることができます。
一方、富山県側からは絶景を楽しみながら。
富山県側の玄関口となるのは、富山地方鉄道の立山駅。
それから立山ケーブルカー、高原バスと乗り継いで、標高2450m、日本で一番高い場所にある駅「室堂ターミナル」に辿り着きます。
さらに室堂ターミナル駅から、現在は国内で唯一ここだけで走っているトロリーバス=無軌条電車に乗って大観峰へ。
さらに、立山ロープウェイ、黒部ケーブルカーと乗り継いで、ようやく黒部ダムに辿り着くことができます。
ちなみに…立山ロープウェイは、途中に支柱がない「ワンスパン方式」として日本一長い約1.7kmを誇るロープウェイ。また、冬季の雪害対策と自然環境への配慮から全線が地下となっているケーブルカーも、日本で唯一ここだけのものです。
これだけの乗り物を乗り継いでいくため、東京駅をスタートして黒部ダムに辿り着くまでの時間は、寄り道などせずにスムーズに進めたとしても約7時間!
ただし、道程ではいろいろな日本唯一の乗り物に乗ることができ、かつ、窓からは北アルプス・立山連峰の雄大な絶景を満喫することができるので、時間に余裕のある方や乗り物好きの方にはオススメです。
2023年の観光放水は6月26日から10月15日まで
立山黒部アルペンルートの観光シーズンは、毎年4月中旬から11月末まで。このうち、夏の期間は観光用に大迫力の放水が行われます。
高度経済成長期の日本の電力不足を補うために建設された黒部ダムですが、発電施設自体は地下に作られています。そのため、放水自体は電力を作るためのものではありません。黒部川下流の生態系を守るため、また、観光客に楽しんでもらうために、観光放水が行われるのです。
その放水量は、1秒間になんと10トン!
迫力をぜひ間近で体感してみて下さい。
今年の観光放水は6月26日~10月15日まで。
時期によって放水時間が変わるので、「せっかく来たのに放水が見られなかった」なんてことにならないよう、公式サイトで調べるなど注意してくださいね。
記事編集:nan-nan編集部